そして、彼の名を不動のものにした代表作が『マルサの女』だ。国税局査察部、通称「マルサ」の執念深い調査員と、巧みに資産を隠す脱税者たちとの知恵比べを描いたサスペンスフルな傑作である。監督自らが徹底的な取材を重ね、専門用語や隠蔽工作の手口を徹底的に脚本へと落とし込んだ。
主演を務めた妻であり女優の宮本信子は、おかっぱ頭にそばかす、ボロボロの靴という強烈なビジュアルで国税調査官役を熱演。彼女が魅せたバイタリティ溢れる演技と、人間の業を深掘りする演出が見事に噛み合い、映画は大ヒットを記録した。緻密なリサーチに基づくリアリズムと娯楽性を高次元で両立させたこの手法は、その後の日本のテレビドラマや映画における「お仕事エンターテインメント」の礎を築いたと言っても過言ではない。