根津甚八の名を世界的なものとしたのは、巨匠・黒澤明監督との劇的な出会いである。映画『影武者』での織田信長役、そして映画『乱』での次男・一文字次郎柄虎役で見せた鬼気迫る演技は、世界中の映画人や批評家を絶句させた。
特に映画『乱』の撮影現場においては、妥協を一切許さない黒澤監督の苛烈な指導のもと、徹底的に役を突き詰め、精神を極限まで追い込んだ秘話が残っている。極寒のロケーションや大規模な合戦シーンでの撮影中、根津は馬上で微動だにせず、役になりきり鋭い殺気を発し続けた。巨匠・黒澤明すらもその佇まいに感嘆し、彼の圧倒的な立ち姿と眼光を「画面を引き締める本物の役者」と称賛したという。
過酷な現場で培われた監督との緊張感あふれる信頼関係と、極限状態で絞り出された表現力は、今なお傑作『乱』を語るうえで欠かせない伝説となっている。