毎年、同じ学年でありながら「わずか2時間で書き上げた生徒」と「丸3日悩んでも1行も進まない生徒」の間には、明確な分水嶺が存在します。多くの人が「名作文学」や「大部な話題作」を選べば立派な文章になると誤解しがちですが、実はこれが最大の落とし穴です。感情移入しにくい重厚な世界観を選んでしまうと、物語の背景説明だけで原稿用紙の大半が埋まり、肝心の「自分の考え」を書くスペースが失われます。
短時間で筆が進む作品には、心理学でいう「自己参照効果」(自分自身の体験や記憶と結びつけて処理された情報は深く記憶・言語化される現象)を強力に引き出す3つの共通項があります。第1に「主人公が日常の身近な問題で挫折や選択を迫られていること」、第2に「感情の起伏(怒り・嫉妬・悔しさ・安堵)がわかりやすく描かれていること」、第3に「善悪が単純に割り切れないテーマを含んでいること」です。
例えば、誰もが経験する友人関係の摩擦や部活動での敗北、家族への反抗心といった情動が軸になっている作品は、読者自身の記憶の引き出しを瞬時にこじ開けます。「この主人公の気持ちが痛いほどわかる」「自分なら絶対に別の行動をとった」という強い反発や共感こそが、ペンを動かす最大の起爆剤となるのです。