敦賀港で早朝に行われるセリの現場は、一瞬の目配せと手振りで大金が動く緊迫した空間だ。根強い人気を誇る越前ガニのなかでも、甲羅が固く詰まった極上品を見極める眼利きは、一朝一夕で身につくものではない。長年にわたり鮮魚卸売業を営む職人は、水揚げされたばかりの個体の重みと足の張り具合を瞬時に判断し、競り落としていく。
「黄色いタグが付けられたブランドガニは当然最高峰だが、脚が1本折れているだけで値が下がる訳ありの極上品を狙うのが賢い買い方だ」と仲卸の店主はささやく。表舞台には出ない競り落としの裏話を聞きながら選ぶカニは、味覚だけでなく旅の記憶にも深く刻まれる。水槽の中で元気に泡を吹くカニを前に、店主との駆け引きを楽しむ時間こそ、この海鮮市場の醍醐味と言える。