長年のキャリアには、語り継がれる伝説のステージ裏話が数多く存在する。ある猛暑の夏、地方野外フェスティバルに出演した際のことだ。本番直前、突如として会場全体のメイン音響システムが落雷による停電で完全にダウンするという絶体絶命のアクシデントが発生した。
パニックに陥るスタッフと騒然とする観客。その時、ジミー入枝は何の迷いもなくマイクを置いた。メンバーとともにステージの最前線へ進み出ると、そのまま肉声だけで力強いコーラスを打ち鳴らしたのだ。マイクもスピーカーもない広場で響き渡る、純粋なアカペラハーモニー。風に乗って届く生の歌声に、会場の誰もが息を呑んだ。やがて曲が終わると、割れんばかりの歓声と涙が会場を包み込んだという。この未公開エピソードは、彼が単なる「設備頼みの歌手」ではなく、生身の声だけで空間を支配できる真のエンターテイナーであることを物語っている。