水産物のリスクマネジメントにおいて、インターネット上で最も危険視されているデマが「加熱調理すれば貝の毒は分解されて無害になる」という誤信です。食の安全に関わるこの致命的な思い違いには、厳重な警鐘を鳴らさなければなりません。
万が一、有毒な真つぶや青つぶの唾液腺を誤って調理してしまった場合、テトラミンは極めて熱に強い耐熱性低分子化合物であるため、長時間の煮沸や圧力鍋での調理を経ても一切破壊されません。それどころか、加熱によって唾液腺から染み出したテトラミンが煮汁全体に溶け込み、出汁を飲んだ人全員が集団中毒に倒れるという凄惨な事故が毎年のように自治体や保健所へ報告されています。
「灯台つぶ貝だから加熱すれば安全」なのではなく、「そもそも灯台つぶ貝にはテトラミンが含まれていないから安全」なのです。この論理のすり替えを決して混同してはなりません。
また、市場の現場では稀に、青つぶ(ヒメエゾボラ)などの有毒種が小ぶりなサイズで灯台つぶ貝のロットに混獲・混入してしまうリスクもゼロではありません。見分けるポイントは殻の丸みと厚みです。細長い塔のような形をしておらず、横にふっくらと丸みを帯びた重たい貝が混ざっていた場合は、念のため殻を割り、身の根元にあるクリーム色の左右一対の塊(唾液腺)を取り除いてから口に運ぶのが、水産関係者が実践する究極の自己防衛策です。