海と山の極端な高低差を持つ徳島の地形は、食材に対しても類稀な生命力を吹き込んできました。鳴門海峡の激しい潮流にもまれる海産物と、日本三大秘境に数えられる祖谷の山岳地帯に伝わる蕎麦は、その好例です。
鳴門の渦潮で知られる海峡は、最大流速が時速20kmにも達します。この激流を泳ぎ抜く鳴門鯛は、骨に「鳴門骨」と呼ばれるコブができるほど筋肉質に引き締まり、身の歯ごたえと上質な脂の乗りが両立しています。春先の産卵期前には「桜鯛」として珍重され、皮目を湯引きにした刺身や、丸ごと一尾を米とともに炊き上げる郷土料理「鯛めし」は、調味料を極限まで削ぎ落としても出汁が満ちる極上の逸品です。
その鳴門鯛と同じ海域で育つ鳴門わかめもまた、全国の市場で別格の扱いを受けます。肉厚で強いコシを持ち、湯通しすると目にも鮮やかなエメラルドグリーンに染まります。地元では「鯛とわかめのしゃぶしゃぶ」として両者を合わせ、春の息吹を一鍋で味わい尽くす文化が受け継がれてきました。
一方、四国山地の奥深く、平家落人伝説が色濃く残る三好市祖谷地方で育まれたのが祖谷そばです。水はけが良すぎる急傾斜地と冷涼な気候は米作に適さず、古くからソバが主食として栽培されてきました。祖谷そば発祥の経緯を紐解くと、落人たちが追っ手から逃れる生活の中で、手早く栄養を補給するために栽培期間の短いソバを植えたことが発端とされています。
一般的な蕎麦と決定的に異なるのは、「つなぎ」をほとんど使わず、地元産のソバ粉十割近くで太めに打たれる点です。麺が切れやすく短いため、すするのではなく、レンゲや箸で具材の油揚げや山菜とともに手繰り寄せるように食します。啜る心地よさではなく、穀物本来の力強い風味と素朴な喉越しを楽しむ、山岳生活の知恵がそのまま残る貴重な食文化遺産です。