ネット上の情報やSNSでは、「暴力団は弱体化して壊滅状態にある」「実質的に解体された」といった言説が散見されます。しかし、治安関係者の分析は異なります。ここには一般には見えにくい組織の「変質」という盲点が存在します。
第一の誤解は、「組員数の減少=組織犯罪の減少」という短絡的な見方です。実際には、暴力団が表に出ず、SNSなどを介して実行役を募る「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」を資金獲得のツールとして利用している実態が警察庁の特別捜査等で次々と判明しています。
第二の誤解は、「六本木の総本部が機能不全に陥っている」という噂です。稲川会総本部六本木周辺は警察の厳重な警備網に囲まれているものの、幹部会や重要行事は機動的に場所を変更して行われており、指揮命令系統そのものは維持されています。組織は消滅したのではなく、法網を逃れるために「見えない化(地下化)」を進めているのが真相です。
【プロの結論】組織社会学の視点から読み解くピラミッド型組織の限界と教訓
組織社会学およびリスク管理の観点から稲川会の現状を分析すると、極めて高度に完成されたピラミッド型ヒエラルキーが、社会環境の激変によって機能不全に陥る典型例が見て取れます。
かつてのヤクザ組織は、盃事(義理の関係)による強固な上下関係と、地域社会における「グレーゾーンの調整役」という名目で存続してきました。しかし、コンプライアンス社会の完成と法執行の高度化により、中央集権的なトップダウン構造は「トップが使用者責任・共謀共同正犯で一発摘発される最大のリスク要因」へと変貌しました。
この構造変化から私たちが学ぶべき教訓は明白です。「外部環境の変化を拒絶し、閉鎖的な忠誠心のみに依存する組織は、どれほど強固な内部規律を持っていても必ず淘汰される」ということです。一般市民や企業においては、暴力団排除の理念を形式的なものと捉えず、契約関係や取引先審査において徹底したスクリーニングを継続することが、組織を守る最大の防衛策となります。