大原麗子の名を日本全国の家庭に深く刻み込んだのは、サントリーレッドのテレビCMだった。「少し愛して、ながく愛して」——カメラ目線で照れくさそうに、けれど愛おしそうに囁くあのCMは、昭和のテレビ史に残る金字塔だ。
だが、あの伝説的なテイクが生まれる背景には、現場での壮絶なやり取りがあった。演出を手掛けた市川崑監督をはじめとする制作陣は、彼女の「素の可愛らしさ」を引き出すために何度もテイクを重ねたという。当初の台本にあったニュアンスを、彼女自身が「もっと自然な、男心をくすぐる間合い」へと変えて提案したという秘話も残っている。
ただのセリフとして言うのではなく、画面の向こうにいる「たった一人の恋人」に語りかけるように。あの声のトーンと絶妙な間合いは、彼女自身の恋愛観や人間への深い愛着が滲み出た結果だった。放送が開始されるやいなや、全国のお茶の間から溜息が漏れ、CMソングとともに一世を風靡した。