新生児の頭部を観察していると、額の少し上、前頭部と頭頂部の境目あたりにひし形の柔らかいへこみを確認できる。この新生児の頭のへこみこそが大泉門だ。多くの保護者を驚かせる「ペコペコと波打つ動き」の正体は、心臓から送り出された血液が脳の動脈を巡る拍動そのものである。
大人の頭蓋骨は完全に骨同士が結合した強固なヘルメット状になっているが、乳幼児の頭蓋骨縫合(複数の骨の継ぎ目)はあえて固定されていない。前頭骨と左右の頭頂骨の合流点にある大泉門には骨が存在せず、皮膚と硬い線維性の結合組織(硬膜など)だけで覆われている。そのため、脳内を循環する動脈圧の波が、脳脊髄液を介して頭皮の表面へダイレクトに可視化される。つまり、大泉門の拍動と健康状態は直結しており、元気よくペコペコと動いていること自体が、全身へしっかりと血液が循環している証拠にほかならない。
骨が隙間を空けている最大の理由は2つある。第1に、分娩時に狭い産道を通り抜ける際、頭の骨同士を一時的に重ね合わせて容積を小さくする「応形機能(モデリング)」を果たすため。第2に、出生後に大人の約80%のサイズにまで猛スピードで巨大化する脳の成長容積を柔軟に確保するためだ。生命の誕生と発達において、この隙間は計算し尽くされた必然の構造だ。