『蛇にピアス』を単なる「過激なエロティック・サスペンス」と捉えるのは本質を見誤る原因となります。金原ひとみの芥川賞受賞作と蜷川映画版には、表現形態における決定的なアプローチの違いが存在します。
原作小説は、徹底して削ぎ落とされた平易で冷徹な文体によって、主人公・ルイの「内面の空洞」を読者に提示しました。世界から遊離した感覚を埋めるために舌を拡張し、皮膚にインクを刻み込む行為は、自傷行為の延長にある生きるための処方箋でした。
対して蜷川幸雄監督の映画版は、蜷川舞台特有の原色の色彩美や皮膚の汗、体温の生々しさをスクリーン全面に押し出しています。文字で描かれた冷たい虚無を、吉高由里子という生身の人間の肉体を使って「強烈な生命の叫び」へと変換した点に、映画版独自の芸術的価値があります。