和歌の背景を読み解く上で欠かせないのが、歌の冒頭に添えられる詞書(ことばがき)です。本作が勅撰和歌集である『詞花和歌集』巻第七「恋上」に採録された際、詞書には簡潔に「題知らず」と記されています。
平安中期の宮廷社会では、特定のテーマを設定して詠む「題詠(だいえい)」が盛んに行われていました。「題知らず」とあることから、本作も特定の個人的スキャンダルを直接記録したものではなく、歌合(うたあわせ)や屏風歌などの場において「激しい片思い」という普遍的なテーマを極限まで突き詰めて詠まれた芸術的結晶であると考えられています。
しかし、単なる机上の言葉遊びにとどまらない迫真の熱量が宿っているのは、「おのれのみ」という言葉選びにあります。「世間の誰もが経験する恋」ではなく、「自分だけが一方的に傷ついている」という強烈な当事者意識が、千年後の現代を生きる私たちの孤独感や恋愛の痛みとも深く共鳴するのです。