「知っているはずなのに名前が出てこない」という状態は、心理学や脳科学の世界で「TOT現象(Tip of the Tongue:喉の出かかり現象)」と呼ばれる。認知神経科学の研究が進んだ今日、この現象は記憶そのものが消去されたわけではないことが分かっている。脳内の巨大なデータベースには情報が存在しているにもかかわらず、そこへアクセスするための検索回路が途切れ、一時的なシステムエラーを起こしているのだ。
現代人の生活様式もこの症状を加速させている。予防医学の視点からも、過剰なデジタル情報のインプットによる「脳疲労」が深刻視されている。慢性的な睡眠不足やストレスが重なると、脳の検索機能は著しく低下し、記憶の引き出しを開けるスピードが鈍化してしまう。