日本において対人コミュニケーションのあり方に革命をもたらした存在といえば、岸見一郎氏らが紹介したオーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーの思想だろう。世界的ベストセラー『嫌われる勇気』のブーム以降、自己啓発の領域において「課題の分離」や「他者貢献」といった概念は一般的な共通言語となった。
アドラー心理学が教える最も重要な真理の一つは、「すべての悩みは人間関係の悩みである」という点だ。他者から嫌われることを恐れて自分を偽る生き方も窮屈だが、逆に他者の領域に無神経に足を踏み入れる行為もまた、壊滅的な摩擦を生み出す。真の良好な対人関係を築くためには、自分の課題と他者の課題を整理し、相手をコントロールしようとする執着を手放さなければならない。
結局のところ、周囲を不快にさせる人は、自分の評価を気にするあまり他者への純粋な関心を失っている。自分を過剰に見せようとする承認欲求の強さこそが、結果として対人関係の破綻を招く皮肉な構造をつくっているのだ。