いまや歴史上の美女たちの解釈権は、学会だけでなく映画・映像配信業界の巨大な戦場へと移っている。その火種を一気に拡大させたのが、Netflixが配信したドキュメンタリードラマシリーズ『アフリカン・クイーンズ: クレオパトラ』だ。
クレオパトラ7世を黒人俳優が演じたことで、エジプト本国では政府関係者や考古学界を巻き込む激しい国際論争へと発展した。歴史的考証を巡る対立であると同時に、誰が過去のイメージを決定するのかという主導権争いでもある。一方で中国でも、ファン・ビンビンが主演を務めた歴史大作『レディ・オブ・ザ・ダイナスティ/楊貴妃』に見られるように、美を権力に対抗する武器として再定義する試みが繰り返されてきた。ユネスコが提唱する文化的多様性の議論とも呼応しながら、ステレオタイプ化された美女像は、現代社会のアイデンティティ政治を映し出す鏡として日々更新され続けている。