なぜ本来「ひとごと」と読む言葉に、「他人」という漢字があてられたのか。時計の針を平安・中世にまで巻き戻すと、意外な語源の真実が見えてくる。
もともと日本語には、自分以外の誰かの事柄を表す言葉として「人事(ひとごと)」が存在していた。「我が事(わがごと)」の対義語としての「人事」である。ところが時代が下るにつれ、「人事」という表記は「じんじ(人事異動、人事部など)」という漢語の発音と混同されやすくなった。
そこで近世から近代にかけて、「他人の事柄」であることを視覚的にわかりやすく伝えるため、「他人事」という漢字を当てて「ひとごと」と読ませる習慣が生まれた。つまり「他人事」は典型的な当て字だったのである。ところが、文字の持つ視覚的インパクトは強力だった。「他(た・たにん)」と「人(にん・ひと)」が並んでいるのを見た人々が、そのまま素直に「たにんごと」と訓読・音読を混交させて読み始めたことで、新たな言葉のバリエーションが世に放たれることとなった。