他者との関係性に埋め込まれた日本人の心理メカニズムを、精神医学の立場から見事に言語化したのが精神科医・土居健郎による名著『「甘え」の構造』である。土居は、言葉にせずとも相手が自分の意図を察し、受け入れてくれることを期待する「甘え」の感情が、人間関係の親和性と同時に特有の葛藤を生み出すと論じた。
この「察し」を前提とするコミュニケーションは、円滑な組織運営や繊細なサービス精神の源泉となる一方で、現代では深刻なコミュニケーション不全の原因にもなっている。察してくれない他者への静かな苛立ちや、過剰な気配り疲れが人間関係の断絶を招き、あえて深い関わりを避けるドライな距離感を好む層が増加しているのも特徴的だ。