全50作という膨大なアーカイブのなかで、映画ファンや批評家から「最高傑作」と称賛される作品には明確な共通点があります。大手映画レビューサイトやキネマ旬報の歴代特集、ファン投票による寅さんマドンナ人気ランキングの集計結果を総合すると、常に上位3作として挙げられるエピソードが存在します。
評価ランキングの筆頭に挙げられるのは、第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975年 / マドンナ:浅丘ルリ子)です。雨の駅前で相合い傘をして歩く寅次郎とリリーの叙情的な情景や、とらやの茶の間でメロンの切り分け方を巡って大騒動に発展する伝説の「メロン騒動」など、喜劇と人情劇の黄金比が極限まで高められた作品として知られています。互いに素直になれず、意地を張り合いながらも深く想い合う二人の機微は、日本映画史に残る名場面として現在も語り継がれています。
続いて高い支持を集めるのが、第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(1976年 / マドンナ:太地喜和子)です。兵庫県たつの市を舞台に、播州網干の芸者・ぼたんが詐欺まがいの投資で騙し取られた200万円を取り戻すため、寅次郎が日本画の大家・池ノ内青観(宇野重吉)を巻き込んで奔走する痛快なストーリーラインが特徴です。太地喜和子の生命力あふれる演技と、下町人情が巨匠の頑固な心を動かすカタルシスが高く評価されています。
そしてもう1作、叙情派の頂点として根強い人気を誇るのが第9作『男はつらいよ 柴又慕情』(1972年 / マドンナ:吉永小百合)です。金沢の旅先で出会った歌子との淡い逢瀬と、柴又での再会。当時27歳だった吉永小百合の瑞々しい美しさと、若き女性の自立を静かに後押しする寅次郎の優しさが胸を打ちます。本作のヒットによりシリーズの人気は不動のものとなり、興行収入の面でも金字塔を打ち立てました。