現実の悲劇が世間を揺るがす以前から、土俵の閉鎖性と異様な掟に目をつけた作家が存在した。小森健太朗による傑作本格推理・ミステリー小説『大相撲殺人事件』である。本作は、相撲部屋という特殊極まりない密室空間、力士の肉体制限や特異な生活習慣を逆手に取った奇想天外なトリックでミステリー界に大きな衝撃を与えた。
小説の中で描かれたグロテスクなまでの様式美と不可解な論理は、奇しくも現実の大相撲・角界が抱える「治外法権性」を鋭く風刺していた。フィクションの皮を被りながら、外部の常識が一切通用しない閉ざされた世界の不条理を浮き彫りにした小森の手腕は、現実の事件を経た現代において、より一層の不気味さと予見性を持って読者に迫ってくる。