「翔子が一人で生きていけるように」――それは、かつて母・泰子氏が絶望の縁で抱いた切実な願いだった。しかし、現在の彼女の部屋を訪れると、そこには悲壮感など欠片もない。朝起きると掃除機をかけ、大好きな音楽を流しながら朝食を作る。近所のスーパーマーケットの店員と挨拶を交わし、夕方にはお気に入りの街並みを散歩する。そんな当たり前の日常が、彼女の書法に劇的な変化をもたらした。
かつての金澤作品を象徴していたのは、爆発的なエネルギーと圧倒的な生命力だった。しかし最近の作品には、どこか風が吹き抜けるような「隙」や「揺らぎ」が存在する。それは計算された意図ではなく、一人で過ごす夜の静寂や、自らの手で生活を回しているというささやかな自信が、自然と筆先に滲み出た結果だ。線の太い細いを超えた場所にある「生きた気配」が、紙の上に立ち上がっている。