昭和のテレビ史において、あるひとつのCMフレーズがこれほど深く日本人の記憶に刻まれた例はほかにない。1977年から10年以上にわたって放送されたサントリーレッドおよびサントリーオールドのCMシリーズである。
和服姿でカメラを見つめ、少しすねたような仕草で「すこし愛して、ながく愛して」と呟く。市川崑監督が仕掛けた絶妙な演出と、彼女特有のハスキーな声が相まって、テレビの前の視聴者はまるで自分が直接話しかけられているかのような錯覚に陥った。男性ファンはメロメロになり、女性ファンはその凛としたスタイルに憧れた。
しかし、あの一瞬の演技の後ろには、徹底したプロ意識が隠されていたという。撮影現場ではミリ単位の角度や目線の配分、声のニュアンスにまでこだわり抜いた。あざとさと気品が奇跡的なバランスで同居していたのは、彼女自身の妥協を許さない女優魂の産物だったのだ。