山辺節子の名前を決定的に世に刻み込んだのが、2017年4月のタイ・ウボンラチャタニでの逮捕劇である。出資法違反容疑で熊本県警から指名手配され、包囲網が狭まる中で海外逃亡を図った彼女の逃亡先は、東南アジアのタイだった。
現地で彼女が身を寄せていたのは、自らが「パトロン」として巨額の金を貢ぎ込んでいた当時30代のタイ人男性の元だった。男性のために豪邸を建て、車を買い与え、親族にまで現金を配る姿は、現地でも「謎の日本人大富豪」として注目を集めていた。しかし、その資金のすべてが日本の被害者から騙し取った金である。
地元警察に身柄を拘束された現場の写真が世界中に配信された瞬間、日本中がどよめいた。当時62歳だった彼女は、ピンクのフレームの眼鏡をかけ、ノースリーブのブラウスにショートパンツを身につけ、まるで20代〜30代の女性のような仕草でカメラに微笑みかけていた。そして何より人々を驚かせたのが、タイ人男性や周囲に対して「自分は38歳のエリカ(エリコ)」と名乗っていた事実である。
24歳もの年齢サバ読みは、単なる逃亡用の偽名というレベルを超え、彼女自身が「作られた虚構の若さ」の中に完全に精神を没入させていたことを示していた。この事件の異様さに強い関心を抱いたのが、女優の故・樹木希林さんである。樹木さんが企画を手掛け、浅田美代子さんが主演を務めた映画『エリカ38』(2019年公開)は、まさにこの事件をモチーフに制作され、金と愛嬌で男たちを手玉に取りながら、破滅へと転落していく女性の悲哀を描き出して大きな話題を呼んだ。