ダウンの襟元に肌色の汚れを見つけた瞬間、多くの人が咄嗟に乾いたティッシュやおしぼりで擦り取ろうと試みます。しかし、繊維製品の染色補修やクリーニングの現場関係者の知見によると、この初期動作こそが取り返しのつかない「繊維の目詰まり」と「生地の白化現象」を引き起こす最大の要因です。
ダウンジャケットの表地には、羽毛の飛び出しを防ぐ「ダウンプルーフ加工」や撥水コーティングが施された極細のナイロン生地が多く採用されています。化粧品には、肌への密着性を高めるシリコン油や固形ワックス、そして微粒子化された無機顔料(酸化チタンや酸化鉄)が含まれています。擦る摩擦熱と圧力によって、この微粒子顔料が極細繊維の隙間に深く圧入され、物理的に掻き出すことが極めて困難な状態へと固定化されてしまいます。
また、パウダーファンデーションとリキッドの違いによっても汚れの構造は変化します。粉体が主体のパウダータイプは油分が比較的少ないものの、擦ると繊維の摩擦静電気で吸着が強まります。一方、リキッドやクッションファンデーションは高粘度の油剤と皮膜形成剤がブレンドされているため、擦ると汚れの面積が2倍〜3倍へと一気に拡大します。落とすための第一原則は、「擦らず、油分を浮かせて繊維の外へ移動させる」ことです。